藤井翔悟コンサルティングFUJII SHOGO CONSULTING
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ケイパビリティベース戦略 — 何で勝つかを組織能力から逆算する

製品ポートフォリオではなく組織能力から戦略を逆算する「ケイパビリティベース戦略」の論理と実務手順を解説。コアコンピタンスとの違い、4原則、CEOが果たすべき役割を経営層向けに整理します。

「競合と同じ市場で戦い続けているにもかかわらず、差別化を打ち出せない」——この状態に陥る企業の多くは、戦略の出発点を誤っています。製品ラインナップや市場シェアを起点に戦略を組み立てると、競合が参入した途端に消耗戦が始まります。1992年、ジョージ・スタルク、フィリップ・エバンス、ローレンス・シュルマン(ボストン コンサルティング グループ)はハーバード・ビジネス・レビューに「Competing on Capabilities」を発表し、戦略の起点を製品から組織能力(ケイパビリティ)に移すという命題を提示しました。ケイパビリティとは、企業がバリューチェーン全体にわたって統合的に保有するビジネスプロセスの束であり、競合が短期間では模倣できない戦略的資産として機能します。

ケイパビリティベース戦略は、プラハラードとハメルが提唱したコアコンピタンス論と混同されることがありますが、焦点が異なります。コアコンピタンスは特定の技術・知識の束(例:ホンダのエンジン技術)に着目するのに対し、ケイパビリティはバリューチェーン全体を横断するビジネスプロセスの統合能力に着目します。スタルクらが挙げたウォルマートの事例が典型的です。ウォルマートの競争優位は低価格という結果ではなく、「クロス・ドッキング」を中心とした物流・補充・店舗管理のプロセスが一体化した組織能力にあります。個々のプロセスを競合が部分的に模倣しても、統合された全体としての能力は再現できない——これがケイパビリティの本質的な模倣困難性です。

スタルクらは、ケイパビリティベース戦略を実現するための4原則を示しています。第一に、企業戦略はビジネスプロセスによって規定される。製品や事業部の構造ではなく、どのプロセスに注力するかが戦略の核です。第二に、核心的なビジネスプロセスは顧客に継続的に優れた価値を届けるものでなければならない。機能部門の最適化ではなく、顧客体験の連鎖全体を設計することが問われます。第三に、投資対象は機能部門やSBU(戦略的事業単位)ではなくケイパビリティそのものに向ける。事業部単位の損益に縛られた投資判断はケイパビリティの構築を妨げます。第四に、CEOがケイパビリティ戦略の主唱者でなければならない。組織横断のプロセス変革は、事業部長レベルの権限では推進できません。

環境変化が速い時代には、特定のケイパビリティを保有するだけでは不十分で、ケイパビリティ自体を組み替える能力が必要になります。デビッド・ティースらが1997年に提示したダイナミック・ケイパビリティ論は、この問題に応えるものです。ダイナミック・ケイパビリティとは、外部環境の変化に対応して内外の組織能力を統合・構築・再配置する能力であり、静的なケイパビリティの「上位概念」として機能します。経営層が問うべきは「現在のケイパビリティで何ができるか」だけでなく、「市場が変化したとき、どのケイパビリティを棄てて、何を新たに構築するか」という問いです。この問いに答え続けられる組織が、長期的な競争優位を維持できます。

ケイパビリティを特定するための実務的な出発点は、「競合が3〜5年かけても再現できない自社のプロセスは何か」という問いです。この問いが難しいのは、卓越したケイパビリティほど日常業務に溶け込んでいて、経営層から見えにくいからです。実務的な手順として、①現在の収益貢献度が高い製品・サービスを横断して、共通して機能しているプロセスを列挙する、②VRIO分析(価値・希少性・模倣困難性・組織定着)で絞り込む、③残ったプロセス群を「顧客価値への貢献度」と「競合との差別化への寄与度」の2軸でマッピングする、という3段階が有効です。この作業によって「現在の強みの源泉」が具体的なプロセスとして可視化され、戦略投資の優先順位が明確になります。

日本企業がこの戦略を実践する際につまずきやすいのが、事業部制との衝突です。SBU構造は事業ごとの損益責任を明確にする一方、ケイパビリティを担う人材・技術・プロセスが各事業部に分断されてしまいます。ケイパビリティはバリューチェーン横断でこそ機能するため、事業部の境界線を越えて資源配分できる設計が不可欠です。トヨタ生産方式(TPS)が長年にわたって競合の追随を許してこなかった理由も、製造工程だけに閉じた技術ではなく、サプライヤー管理・品質設計・現場改善のプロセスが全社横断で統合されているからです。組織の縦割りを維持したままケイパビリティを構築しようとすると、「部門ごとに優れているが、全体として強くない」という状態が生まれます。

ケイパビリティの構築と管理はCEOの直轄テーマです。事業部長が自部門の最適化を図るのは当然ですが、組織横断のプロセスに責任を持つ立場ではありません。CEOが製品ポートフォリオと並行してケイパビリティポートフォリオを管理し、「どのケイパビリティに投資し、どのケイパビリティから撤退するか」を意識的に判断する仕組みが必要です。当研究所では、ヘルスケア経営の現場で磨いた組織変革の方法論を基に、ケイパビリティの特定から組織横断の実装設計まで、「現場で検証済みのことしか提案しない」という原則のもとお手伝いしています。戦略の絵を描くだけで終わらせず、組織能力として根付かせるまでの伴走が、当研究所の強みです。

「何で勝つかを決める前に、自社はどのプロセスで競合を圧倒できているのかを問え」——ケイパビリティベース戦略が経営層に求める問いの転換はここにあります。製品ラインや市場ポジションから戦略を組み立てる発想は、競合が同じ市場に参入した瞬間に優位が崩れます。組織能力を起点に戦略を逆算すれば、競合が参入しにくい領域で持続的な優位を保てます。自社のケイパビリティを棚卸しし、戦略の優先順位に接続する議論を始めたい経営層は、経営層ブリーフィング( https://fujii-consulting.jp/contact )にてご相談ください。具体的な論点の整理から実装の道筋まで、経営の意思決定に資する形でご支援します。

出典

  1. [1]Stalk, Evans, Shulman「Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy」Harvard Business Review(1992年3月号)
  2. [2]Teece, Pisano, Shuen「Dynamic capabilities and strategic management」Strategic Management Journal(1997年)

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