藤井翔悟コンサルティングFUJII SHOGO CONSULTING
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ERPのアドオンを減らす — 標準機能に業務を寄せる経営判断の設計

日本企業のSAP利用者の約61%がECC 6.0で稼働し、移行費用は半数超が5億円超に上る。費用以上の問題はアドオンの扱いだ。「廃止・標準置換・外部化」の3軸でアドオンを仕分けし、業務標準を経営が決める意思決定の設計を解説する。

SAP ECC 6.0の標準保守は2027年に終了する。電通総研の調査によると、国内SAP利用企業の約61%がまだECC 6.0で稼働しており、S/4HANAへの移行費用は「5億円超」を見込む企業が半数以上に上る。しかし費用の問題以上に深刻なのは、アドオンの扱いだ。現行アドオンをそのまま引き継ぐコンバージョン方式を選択肢に挙げる企業が32.7%と最多だが、引き継ぎを選ぶほど移行後の保守コストは高止まりし、刷新が「形だけの入れ替え」に終わる。ERPのアドオンを減らすことは単なるコスト削減ではなく、経営が今後10年使えるシステム基盤を獲得するための意思決定だ。

日本企業がなぜアドオンを積み上げてきたかには、合理的な背景がある。日本固有の商習慣(複数の支払条件、得意先別の出荷単位管理、精緻な在庫管理など)がグローバルERPの標準設計と合わない領域で、現場が「ギャップを埋めるための開発」を積み重ねてきた。導入プロジェクトがFit and Gap(自社業務に合わせてシステムを作り込む)を前提に進んだため、ERPは入れるたびにカスタマイズが増え、稼働したその日から陳腐化が始まった。稼働後に1,000本超のアドオンを抱えた事例は珍しくなく、この状態ではERPベンダーのバージョンアップにすら追随できなくなる。

アドオンの本質的な問題は、開発費用よりも「変われないコスト」にある。アドオンが多いほどベンダーのアップデートへの対応工数が増え、業務改善の提案がシステム制約に阻まれる。「この業務プロセスを変えたい」と思っても「アドオンがあるから」という理由で棚上げにされる状況が、現場の変革意欲を継続的に削いでいく。さらに、アドオン開発・保守を担う特定SIerへの依存度が上がり、内製化やベンダー変更の障壁が高くなる。ERPは経営の柔軟性を高めるために導入したはずが、逆に変化への対応力を封じる構造になっていることは珍しくない。

アドオン削減の意思決定で中心となるのは、一つひとつのアドオンに対して「これはなぜ必要なのか」を業務側に問うことだ。整理の軸は三つある。第一は「廃止」で、かつての帳票様式や旧来の商習慣の名残で今は誰も使っていないアドオンを特定して消す。第二は「標準置換」で、ERP標準機能で代替できるにもかかわらず慣行で残っているアドオンについて、業務側の運用を変えることで対応する。第三は「外部化」で、競争優位の源泉となる固有業務はERPのコア外(APIで接続するSaaS・内製アプリ)に移す。この三軸で仕分けをせずにコンバージョンを選ぶと、アドオンの総量を引き継いだまま移行費用だけを支払う結果になる。

この意思決定が経営課題である理由は、現場任せでは「廃止」が決まらないからだ。「標準機能に業務を寄せる」ことは、業務プロセスの変更と現場への説得を意味する。経理部門が長年使ってきた出力形式を変えること、受発注フローをERP標準に統一することは、IT部門の判断ではなく経営判断が必要だ。経営がアドオン削減を「IT部門の仕事」に任せると、現場調整が進まず、すべてのアドオンが「業務上必須」として残り続ける。ERPの標準化は技術的な施策ではなく、経営が業務標準をどこに置くかという意思決定に他ならない。

実行上の最大の落とし穴は、アドオンの全量調査に時間をかけすぎることだ。半年かけてすべてのアドオンを分析すると、担当者の異動や組織変更で判断が先送りになり、プロジェクト自体が立ち消えになる。当研究所の知見では、最初の仕分けは6週間以内に完了させることが現実的な進め方だ。全アドオンの完璧な評価より、「廃止候補50%・精査30%・存続20%」という大まかな比率を経営が先に宣言し、その目標から逆算してプロジェクトを動かすほうが完遂率が高い。ヘルスケア経営の現場でシステム刷新を複数経験してきた当研究所が言えるのは、スピードと経営関与の両立こそがアドオン削減プロジェクトを頓挫させないための条件だということだ。

ERP刷新の成否は、システムの選定よりも「アドオンをどれだけ捨てられるか」で決まる。2027年の期限は一つの機会だが、それを単なるマイグレーションで乗り切っても経営の柔軟性は取り戻せない。業務標準とアドオン削減の意思決定を経営が先に行い、その後にシステム選定・移行方式を決める順序が本筋だ。現場で検証済みのことしか提案しないというスタンスで、当研究所の経営層ブリーフィング( https://fujii-consulting.jp/contact )では自社のアドオン仕分けの進め方や経営関与の設計について具体的な道筋を提示している。

出典

  1. [1]電通総研「SAPサービス・導入・運用実態調査」—ECC 6.0利用率・移行費用動向(ASCII.jp報道、2024年)

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