藤井翔悟コンサルティングFUJII SHOGO CONSULTING
DX・IT戦略7分で読める

「2025年の崖」のその後 — レガシー債務の棚卸しと宿題の優先順位設計

経産省の2025年5月レポートで全産業の61%にレガシーシステムが残存と判明。「崖」は越えられなかったのではなく、先送りされた。棚卸しの手順と残った宿題の優先順位設計を解説する。

2018年に経済産業省が「DXレポート」で警告した「2025年の崖」は、期限を迎えた今もなお解消されていない。経産省が2025年5月に公表した「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」によれば、全産業のユーザー企業の61%にレガシーシステムが残存しており、大企業では74%に上る。「崖を越えた」のではなく、期限だけが過ぎた状態だ。問題の本質は変わっていない。老朽化・肥大化・ブラックボックス化したシステムが経営の選択肢を狭め続けている。

残存率が高止まりしている背景には、経営層の関与の薄さがある。同レポートでは、大規模なシステム導入・刷新を中期経営計画に明示している大手企業はわずか12%にすぎないという実態が示された。経営課題として可視化されなければ、予算も優先度も付かない。IT部門が刷新の必要性を訴えても、費用対効果の説明が経営の言語で行われていなければ、「今期も先送り」の意思決定が繰り返される。問題をITの専門事項として扱い続けることが、最大の停滞要因だ。

IPA「DX動向2026」(2026年7月)の調査(国内企業1,799社対象)でも、DXへの取組率と成果実感率は前年調査と同水準にとどまり、業務効率化では一定の成果が見られる一方、企業価値創出につながる変革は依然として低い水準にあることが確認されている。言い換えると、RPA・ダッシュボード・ペーパーレスで「やった感」は生まれているが、事業の競争力に直結するシステム刷新は進んでいない。短期の効率化と、構造的なレガシー解消は別の経営判断だ。

経営が最初に行うべきは、自社のレガシー債務の全体像を把握する棚卸しだ。棚卸しの切り口は三つある。第一は「稼働年数と依存度」で、21年以上稼働しているシステムかつ基幹業務との依存関係が高いものを洗い出す。第二は「属人化リスク」で、特定の担当者・ベンダーしかメンテナンスできない状態を特定する。第三は「技術負債の財務換算」で、保守費の上昇率と機会損失を試算し経営の数値として示す。この三軸で整理すれば、経営会議で議題に上がる解像度になる。

棚卸しが終わったら次は優先順位の設計だ。すべてのレガシーを一度に刷新しようとするのが最大の失敗パターンで、現場・予算・ベンダーのキャパシティが同時に逼迫して頓挫する。優先すべきは「停止リスクが高い」かつ「代替手段が存在する」システムからだ。クラウドSaaSへの移行が現実的なものは移行し、業務固有の要件が強いものはスクラッチ刷新ではなくAPI連携による段階的な切り離しを選ぶ。全体最適より部分最適の積み重ねが、実装に至るための現実的な道筋だ。

当研究所がヘルスケア経営の現場で磨いてきた方法論も、この原則に基づいている。「現場で検証済みのことしか提案しない」という姿勢は、大規模刷新への過度な期待を排し、小さく確認して次に進む規律から来ている。レガシー解消においても同様で、まず1システムの移行を完遂し、コスト・工数・現場負荷の実数値を取ってから横展開の計画を組む。理想のアーキテクチャを描いてから動くのではなく、最初の一手を動かして学ぶことが停滞を解消する。

「2025年の崖」という言葉の賞味期限は切れたが、問題の賞味期限は切れていない。2030年にはIT人材不足が最大45万人規模に拡大するという試算(経産省)もあり、今後は「人がいないから刷新できない」という制約がさらに強まる可能性がある。経営が動けるウィンドウは今だ。棚卸しから始めて、優先順位を経営の言語で設計し、最初の一手を実行する。当研究所の経営層ブリーフィング( https://fujii-consulting.jp/contact )では、レガシー債務の可視化から刷新ロードマップの設計まで、現場実装の観点を踏まえた具体的な検討を支援している。

出典

  1. [1]経産省「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(2025年5月)
  2. [2]IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント」DX動向2026(2026年7月)

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