藤井翔悟コンサルティングFUJII SHOGO CONSULTING
変革事例研究7分で読める

エネルギー・インフラ業の予知保全はどこから始めるか — データ経営への転換起点

老朽化設備、熟練技術者の減少、規制強化という三重の圧力に直面するエネルギー・インフラ事業者が、予知保全とデータ経営への転換をどこから始めるべきか。中部電力・九州電力・東京電力の実装事例から、起点の設計と転換の順序を解説します。

老朽化設備、熟練技術者の高齢化、脱炭素に向けた設備刷新という三重の圧力が、日本のエネルギー・インフラ事業者に重くのしかかっている。これらの課題を個別に「保全コストの削減」「人員補充」で解こうとしている限り、構造は変わらない。私たちの結論は、起点をデータに移すことだ。センサーで設備の状態を常時取得し、異常の予兆をAIで検知する「予知保全」に移行することで、コスト構造と安全品質を同時に改善できる。ただし、この転換には順序がある。最初から全設備をデジタル化しようとした企業ほど、かえって立ち止まっている。

業界を取り巻く変化は二つの方向から来ている。一つは設備の老朽化だ。高度成長期に整備されたインフラが更新時期を迎え、維持コストが増大し続けている。もう一つは規制環境の変化だ。2023年に導入されたレベニューキャップ制度のもと、送配電事業者はコスト効率化の説明責任を一層問われるようになった。この二重の圧力に対して、データを使った設備管理の高度化が現実的な解になっている。グローバルでは、発電分野の予知保全市場が2025年の約20億米ドルから2035年には約56億米ドルへと年率10.8%で成長すると予測されており、日本の主要電力各社もすでに実装フェーズに入っている。

国内の先進事例として、中部電力の水力発電最適化が挙げられる。飛騨川水系の発電所群に、流入量予測・過去データ検索・最適化という3種類のAIシステムを組み合わせて導入した結果、計画策定にかかる時間が4時間から約30分に短縮され、年間発電量は約3,000万kWh増加した(約1万世帯分に相当)。設備を新設することなく、既存設備の運用知識をデータに置き換えることで生まれた成果だ。人の経験と勘に頼っていた計画策定をAIに移譲することで、熟練技術者の不在を補いながら収益性を改善した典型例といえる。

設備点検の分野でも変化は起きている。九州電力送配電は、九州エリアの約25,000基の鉄塔のうち標準形状の約15,000基でドローンとAIを組み合わせた点検システムを運用し、点検時間を約50%短縮した。東京電力は設備点検における確認作業の80%削減を目標として生成AIの活用を進めており、すでに社員の40%が生成AIを日常業務に利用、1日0.5時間程度の業務効率化を実感している(2025年1月時点)。高所・危険箇所への立ち入りを減らせるという安全効果が、現場での受け入れを後押ししている。

これらの事例に共通するのは、転換の「順序」だ。第一段階は、センサーや点検記録のデジタル化による「状態の可視化」であり、何が・いつ・どんな状態にあるかをデータで押さえることが出発点になる。第二段階で、蓄積したデータをもとに異常の予兆を検知し、計画外停止を未然に防ぐ「予知保全」に移行する。第三段階が、発電計画の最適化や保全リソースの再配分など、データを使った「運用最適化」だ。失敗事例の多くは第一段階を飛ばして第三段階の絵を描くことで始まる。手元にあるデータの品質と量が、戦略の前提条件になることを経営は先に理解しておく必要がある。

現場でよく聞くのは三つの壁だ。一つ目は「データが散在している」こと。設備台帳・保全記録・センサーログが別々のシステムに入っており、横断的に活用できていない。二つ目は「何を予測すれば経営上の価値があるのかが定義されていない」こと。センサーを付けてデータを取ることと、それを稼働率・コスト・安全件数という経営KPIに接続することは別の作業だ。三つ目は「ROIが可視化されていない」こと。実装コストに対してどれだけの保全コスト削減・収益改善が見込めるかを試算しないまま、PoCを繰り返している企業が少なくない。私たちが最初に手を付けるのは、この三つを整理するフェーズ分けと優先順位の設計だ。

エネルギー・インフラ業の予知保全と一言でいっても、電力・ガス・水道・鉄道・プラントでは設備の特性も規制の枠組みも異なる。私たちは、ヘルスケア経営の現場で患者一人ひとりのデータを追いながら経営判断に接続してきた方法論を、インフラ事業の設備管理に展開している。「現場で検証済みのことしか提案しない」という規律のもと、データの現状把握から始め、投資対効果が見える優先順位をともに設計する。エネルギー・インフラ業のデータ経営をどこから手を付けるべきか、現場の具体的な課題を携えて経営層ブリーフィング(https://fujii-consulting.jp/contact)でご一緒します。

出典

  1. [1]AI Revolution「電力・エネルギーのAI活用事例|需給最適化・インフラ保全・再エネ管理の最前線」(2026年)
  2. [2]AI Revolution「インフラ・プラント保全のAI活用事例|設備診断・予知保全・老朽化対策AI徹底解説」(2026年)
  3. [3]GII「発電分野における予知保全市場 | 市場規模・市場動向・予測 2026–2035年」

FREE MEMO

経営層向けの実務メモを、メールで受け取る

本文では書ききれなかった実装手順、意思決定の観点、AI活用のチェックポイントを短く届けます。

無料メールを受け取る

EXECUTIVE BRIEFING

この論点を、貴社の経営会議の議題に。

経営層の方向けに、この論点に関する個別ブリーフィング(90分)を実施しています。

ブリーフィングを申し込む