いいお客さんを「40代」と書いてはいけない — 治療院経営で顧客解像度を上げる方法
治療院経営で広告や商品が刺さらない原因は、顧客像が粗いことにあります。藤井塾のリサーチ講義をもとに、年齢・悩み・生活背景・支払い理由まで具体化する顧客リサーチの方法を解説します。

AUTHOR
藤井翔悟
株式会社藤井翔悟事務所 代表取締役 / 理学療法士
理学療法士として医療現場でキャリアを開始後、治療院経営で起業。自身の事業を年商10億円規模まで成長させた経験をもとに、治療院経営・ヘルスケア経営・企業変革を現場実装型で支援している。
「40代女性・腰痛」では、まだ誰にも届いていない
属性は入口です。広告で必要なのは、その人がなぜ今、動くのかまで見えていることです。
治療院経営でペルソナを作るとき、多くの人がまず年齢、性別、症状名を書きます。40代女性、慢性腰痛、デスクワーク、近隣在住。ここまでは誰でも書けます。しかし、ここで止まると広告は弱くなります。なぜなら、読み手の頭の中では「腰痛で困っている人」は無数にいて、自分が今すぐ行動すべき理由が立ち上がらないからです。
藤井先生が講義で見ているのは、もっと生々しい部分です。その患者さんは何に困っているのか。痛みそのものではなく、痛みによって何を失っているのか。仕事の集中力なのか、家族との外出なのか、将来の自立なのか、趣味の時間なのか。ここが見えないまま広告を書いても、言葉はどうしても広く、薄くなります。
顧客像の粗さは、広告だけの問題ではありません。初回体験の設計、回数券の説明、価格の伝え方、継続提案の順番にも影響します。誰に価値を届けるのかが粗いと、すべての説明が一般論になり、結局は割引やキャンペーンに頼りやすくなります。
特に自由診療では、患者さんは「痛いから近いところへ行く」だけで動くとは限りません。保険診療や接骨院、マッサージ、整形外科、セルフケア、家族からの紹介など、複数の選択肢の中から選びます。その中で、なぜあなたの院を選ぶのか。ここまで考えないと、広告は単なる症状名の羅列になります。
広告を見た人は、無意識にいくつもの問いを持っています。自分の症状でも見てもらえるのか。強く押されないか。高額な回数券を売られないか。先生は話を聞いてくれるのか。今まで変わらなかった痛みにも可能性があるのか。これらの不安に触れない広告は、見た目が綺麗でも読み飛ばされます。
つまり顧客像を細かくするとは、プロフィールを作り込むことではありません。読み手が広告を見た瞬間に抱く疑問と不安を、事前に把握することです。そこまで見えている治療院は、見出しも、本文も、初回説明も、価格の伝え方も自然に変わります。
DIAGRAM
属性リストから、選ぶ理由へ掘り下げる
粗い顧客像
40代女性・腰痛
誰でも書ける属性情報。広告の見出しにしても、読み手が自分の話だと感じにくい。
使える顧客像
何を失い、何を取り戻したいか
生活上の困りごと、比較対象、支払い理由まで見えると、言葉が具体化する。
買う人には、必ず共通項がある
高単価の商品ほど、買ってくれる人の背景に似たパターンが出ます。
講義では、購入者を細分化すると共通項が見えてくるという話が出ます。これは、顧客を決めつけるという意味ではありません。実際に価値を感じてくれた人、継続してくれた人、紹介につながった人の中にある、選ぶ理由のパターンを見つけるということです。
たとえば、同じ腰痛でも背景は違います。家事ができないことに困っている人。仕事のパフォーマンスが落ちることを恐れている人。将来ひとりで生活できなくなる不安を抱えている人。大事なイベントまでに体を戻したい人。症状名だけでは同じに見えても、支払い理由はまったく違います。
いいお客さんを見つけるとは、単にお金を払ってくれる人を探すことではありません。自院の価値が本当に届きやすい人、自分たちの技術や接遇が意味を持つ人、結果として長く関係を作れる人を明確にすることです。ここが曖昧なままでは、広告は広がっても経営は安定しません。
この共通項は、経営者が頭の中で作るものではありません。実際に来院した人、購入した人、継続した人、紹介した人の記録から取り出します。理想の患者さんを想像する前に、すでに自院に価値を感じてくれた人を見る。ここが順番です。
治療院経営では、声の大きい顧客や印象に残る顧客だけを基準にしてしまうことがあります。しかし、経営判断に使うべきなのは記憶ではなく記録です。直近10人、できれば30人を見直すと、思い込みとは違う共通点が見つかることがあります。
たとえば、年齢層はバラバラでも「仕事を休めない」という共通点があるかもしれません。症状は違っても「原因を説明してほしい」という共通点があるかもしれません。地域は違っても「家族に紹介された」という共通点があるかもしれません。この共通項が、広告の芯になります。
DIAGRAM
買う人を3層で見る
1
症状
表に出ている悩み
腰痛、肩こり、しびれ、可動域制限など。ここだけでは広告の差別化は難しい。
2
生活背景
痛みで止まっていること
仕事、家事、睡眠、移動、趣味、家族との時間。読み手の感情が動く層。
3
支払い理由
なぜ自由診療を選ぶのか
早く戻したい、再発を避けたい、説明に納得したい、体を資本として考えている。
広告文を書く前に、患者さんの言葉を聞く
自分の頭で考えたコピーより、患者さんが実際に使った言葉の方が強いことがあります。
顧客解像度を上げる一番確実な方法は、既存患者さんに聞くことです。なぜ来たのか。来る前に何が不安だったのか。なぜ他ではなく自院を選んだのか。価格を聞いたとき、何を考えたのか。通ってみて、どの瞬間に価値を感じたのか。
この質問をすると、経営者側が思っていなかった魅力が出てくることがあります。先生の説明が安心できた。予約前の案内が丁寧だった。ホームページの一文で、自分のことだと思った。家族に説明しやすかった。こうした言葉は、そのまま広告の素材になります。
注意すべきなのは、患者さんの言葉をそのまま個人情報として使わないことです。公開する時は、特定されない形に抽象化します。けれども、言葉の構造は残す。どんな不安があり、どんな価値を感じ、どんな未来を求めていたのか。その構造が広告に必要です。
患者さんに聞く時は、満足度アンケートのようにふわっと聞かない方がいいです。「どうでしたか?」ではなく、「最初に何で迷いましたか」「他と比べた時に何が違いましたか」「価格を聞いた時に不安はありましたか」「続けようと思った理由は何ですか」と、意思決定の場面を聞きます。
この聞き方をすると、広告で使うべき言葉が出ます。患者さんは専門用語で悩みを話していません。朝がつらい、階段が怖い、旅行を諦めたくない、仕事中に集中できない、家族に心配をかけたくない。こうした言葉が、ヘッドラインや本文の材料になります。
藤井先生の講義で扱われているリサーチは、机上の分析ではありません。現場で聞き、現場で試し、現場の反応で直すための材料集めです。だから、患者さんの言葉を聞くことは、広告担当の仕事ではなく、治療院経営そのものの仕事です。
DIAGRAM
患者さんの言葉を広告価値へ翻訳する
院側の特徴
独自の評価と専門技術があります
専門家としては正しい説明。しかし、読み手には自分の生活がどう変わるのかが見えにくい。
患者側の価値
なぜ痛みが続くのかを確認してから方針を決めます
不安、納得、未来の変化に接続した言葉。選ぶ理由として理解されやすい。
個別情報は使わず、教育コンテンツへ変換する
顧客理解は深くする。ただし公開時は、個人が特定されない粒度へ上げます。
藤井塾のような閉じた講義では、受講生の実例や患者像が具体的に語られることがあります。しかし、そのまま公開メルマガやSEO記事に出すことはできません。名前、年齢、家族構成、職業、地域、売上、症例詳細などは、組み合わせると特定につながる可能性があります。
公開コンテンツで使うべきなのは、個別事例そのものではなく、そこから取り出した経営原則です。高齢の慢性痛層、体を資本と考える専門職層、仕事や家事への影響を強く感じている層、比較検討に時間を使う層。こうした形に変換すれば、守秘と教育を両立できます。
成果や数字を出したい気持ちは大切です。強い実績は信頼になります。しかし、許可のない顧客成果を出すのではなく、まずは公開可能な原則、プロセス、チェックリストに落とす。数字を出す場合は、公開許可と文脈を整えた上で使う。この規律が、長期的な信頼を作ります。
DIAGRAM
公開前に粒度を上げる3段階
STEP 1
個別情報
名前、地域、家族構成、売上、症例詳細。公開しない。内部学習に留める。
STEP 2
共通パターン
似た悩み、似た支払い理由、似た比較行動。個人を特定できない形にする。
STEP 3
教育原則
広告、商品、価格、接遇の判断基準に変える。記事やメルマガで公開できる。
顧客像が粗いと、広告・商品・価格が全部ズレる
顧客解像度はマーケティングの話に見えますが、実際には経営全体の精度を決めます。
顧客像が粗い状態で広告を作ると、まず見出しがズレます。誰に向けているのかわからないため、言葉が一般論になります。次に商品説明がズレます。施術の特徴ばかりを語り、患者さんの生活変化に接続できません。最後に価格説明がズレます。価値の文脈がないため、金額だけが目立ちます。
この状態で広告費を増やしても、反応が安定しません。たまたま来る人はいても、継続や紹介につながる顧客が増えにくい。単価を上げたいのに、価格への納得が作れない。結局、値引きやキャンペーンに戻ってしまいます。
藤井先生の講義で繰り返される現場感は、ここにあります。まず市場を見る。買う人を見る。求められていることを見る。その上で、商品と訴求を作る。自分が売りたいものから始めるのではなく、患者さんが求めるものから始める。この順番がズレると、経営全体がズレます。
DIAGRAM
顧客像が粗いことで起きる3つのズレ
ROOT
誰がなぜ買うかが粗い
属性だけで止まり、選ぶ理由まで見えていない状態。
広告のズレ
広すぎる見出しになり、読み手が自分のことだと感じない。
商品のズレ
施術の特徴は語れるが、生活上の価値に翻訳されない。
価格のズレ
価値の文脈がないため、金額だけが高く見える。
今日やること — 直近10人を、名前を伏せて棚卸しする
理想の顧客を想像する前に、すでに来ている人を見ます。
今日やることは、直近10人の来院者を棚卸しすることです。名前は使いません。症状、生活上の困りごと、来院理由、比較対象、選んだ理由、価格への反応、継続理由だけを記録します。紙でもスプレッドシートでも構いません。
次に、その10人の中で、価値を強く感じてくれた人、継続した人、紹介につながった人に印をつけます。そして、印がついた人の共通項を見ます。症状だけでなく、生活背景、意思決定のきっかけ、支払い理由まで見ます。
最後に、広告へ戻します。見出し、初回オファー、説明の順番、価格の伝え方を一つだけ直します。すべてを一気に変える必要はありません。藤井先生の現場型の考え方は、小さく実装し、数字で検証し、効いた施策だけを残すことです。
この10人棚卸しを行う時、良い患者さんだけを見る必要はありません。途中で離脱した人、価格で迷った人、問い合わせだけで終わった人も大事です。なぜ続かなかったのか。どこで不安が強くなったのか。どの説明が足りなかったのか。失注にも市場の答えがあります。
ただし、数字を雑に見ないことです。問い合わせが少ないなら広告の入口かもしれません。問い合わせはあるのに予約が少ないなら電話対応や予約導線かもしれません。予約はあるのに継続しないなら初回体験や説明の順番かもしれません。顧客解像度は、こうした分解にも必要です。
最終的に作りたいのは、一文です。「私たちは、〇〇で困っている人に、〇〇という変化を提供する」。この一文が曖昧なら、広告も商品も曖昧になります。この一文が具体的になれば、見出し、オファー、初回説明、継続提案が一つの方向を向きます。
もう一つ大切なのは、顧客像を一度決めたら固定しないことです。地域の競合、季節、患者さんの悩み、生活習慣、広告媒体は変わります。半年前に反応した言葉が、今も同じように反応するとは限りません。だから、顧客リサーチは一回で終わりではなく、毎月の経営習慣にします。
月に一度、直近の問い合わせと来院者を見直すだけでも、広告の精度は変わります。どの見出しから問い合わせが来たのか。どの説明で安心したのか。どの価格説明で迷ったのか。こうした小さな観察を積み上げると、広告代理店任せでは見えない自院の勝ち筋が見えてきます。
顧客解像度が上がると、発信のトーンも変わります。誰にでも好かれようとする文章ではなく、必要な人に深く届く文章になります。これは勇気が要りますが、自由診療では特に重要です。万人向けの言葉では、価値を感じてくれる人に届きにくいからです。
最後に、棚卸しした内容は必ずチームで共有してください。院長だけが理解していても、受付の電話対応、スタッフの説明、LINEの返信、院内掲示がズレていると、患者さんの体験は一貫しません。いいお客さんの定義は、広告担当だけの資料ではなく、院全体の判断基準です。
この判断基準があると、やらないことも決められます。誰にでも刺さるキャンペーンを追いかけない。自院の価値が届かない患者層に無理に合わせない。価格だけで比較される導線を増やしすぎない。顧客解像度は、集客数を増やすためだけでなく、経営の迷いを減らすためにも使います。
迷った時は、広告文を読む前の患者さんの状態に戻って考えてください。その人は何に困り、何を疑い、何を期待し、何があれば一歩動けるのか。ここに戻れる治療院ほど、施策の修正が早くなります。
そして、リサーチで見つけた言葉は必ず保存してください。広告、LINE、ホームページ、初回説明、紹介カードに横展開できます。顧客解像度は一度の広告改善ではなく、院全体の言葉の資産になります。
DIAGRAM
直近10人から広告へ戻す実装フロー
1
10人を棚卸し
名前を伏せて、困りごと、選んだ理由、価格反応、継続理由を記録する。
2
共通項を抽出
価値を感じた人に印をつけ、生活背景と支払い理由の共通点を見る。
3
一文を改善
広告見出し、説明、オファーのどれか一箇所だけ変えて反応を見る。
顧客解像度は、考えるほど上がるのではなく、記録して反応を見るほど上がります。
まとめ
いいお客さんは、属性ではなく、選ぶ理由まで見えた時に初めて定義できます。
治療院経営で顧客像を作る目的は、きれいなペルソナ資料を作ることではありません。広告、商品、価格、接遇、継続提案の判断をズラさないことです。だからこそ、年齢・症状名で止めず、生活背景、行動のきっかけ、支払い理由、選ぶ理由まで掘り下げる必要があります。
個別情報は使わない。けれども、個別事例から見えた共通パターンは教育コンテンツへ変換する。顧客情報を守りながら、現場で検証済みの原則を公開する。このバランスが、藤井コンサルティングの日刊メルマガと記事の軸です。
顧客リサーチの解像度を上げたい方は、まず直近10人の棚卸しから始めてください。その上で、自院の広告、商品設計、価格説明まで一緒に整理したい場合は、経営層ブリーフィングまたはお問い合わせからご相談ください。
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よくある質問
治療院のペルソナはどこまで具体化すべきですか?
年齢、性別、症状名だけでなく、生活上の困りごと、来院のきっかけ、比較対象、価格への感じ方、通う理由まで整理します。広告に使うには、読み手が自分のことだと感じる粒度が必要です。
顧客情報をメルマガや記事で使ってもよいですか?
個人が特定される情報は使うべきではありません。名前、地域、年齢、家族構成、売上や症例の詳細は伏せ、公開可能なパターンや教育原則として再構成します。
既存患者さんには何を聞けばよいですか?
来院前に困っていたこと、今動こうと思った理由、なぜ自院を選んだのか、他と何を比較したのか、価格をどう感じたのかを聞くと、広告の材料が見つかりやすくなります。
